セブン&アイホールディングスがカナダ大手コンビニチェーン会社からM&Aの提案を受けているという経済界にとって小さくないニュースが報道されています。外国資本が日本企業を買収する、という構図には江戸時代の黒船来襲にも似た圧力的なトラウマを感じるのは日本人の性か、そうした感情を煽るような報道も散見されます。M&Aに関連するニュースには、常に「敵対的買収」、「TOB」などのキーワードがつきまといます。過去にはライブドアや大戸屋ホールディングスなどがニュースでセンセーショナルかつ劇場型で報道されてきました。「創業家が大切に守ってきた事業が、他の資本から否応なしに買われる」というイメージは、M&Aに対する忌避感を募らせてきました。件(くだん)のこともあり、M&Aと聞くとなんだかきな臭い香りを感じるのは、こうした背景が要因にありそうです。しかし、こういったケース(敵対的買収)は、実は稀です。というか、全体の母数から言えば、ほとんどありません。敵対的買収は、基本的に上場企業(大企業)のお話ですそもそも「敵対的買収」とはなんでしょうか? これは「ある会社の株式を、その会社の合意を得ないまま強引に買い集め、結果的に51%以上を保有する状態」を言います。51%というのは議決権の過半数であり、会社にとって(たとえ多少の反対があっても)重要な決め事ができる立場を有することになります。つまり、実質的に支配する権限を持つわけです。与党と野党に例えるとわかりやすいかもしれません。ここで重要なのは「株式を強引に買い集める」という点です。この買い集めがなされるのは、上場企業だけです。東証などに株式を公開している上場企業は、公開しているがゆえに、誰もがこれらの株式を買うことができるからです。一方で、未上場企業は、大株主が創業一家であったり、社長個人であったりすることがほとんどです。こうした株式は、株主個人の了承はもちろん、取締役会での承認が必要です。だから、基本的に未上場企業を敵対的買収するケースは起こり得ないのです。動物病院の敵対的買収は、ありえないでは、動物病院に話を移しましょう。動物病院の経営母体は、ほぼ全てが未上場企業です。となるとどうでしょう? そう、一部の上場企業グループ病院を除くと敵対的買収はあり得ないのです。公開されていない株式を買うことができないからです。乗っ取りたくても乗っ取れないのです。そうした防御機構が備わっています。もっと言えば、個人事業主の場合はさらに不可能です。株式がないからです。動物病院の事業承継やM&Aと聞くと、禍々しい響きを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが「友好的買収」で成り立っています。つまり、株主も取締役たちも了承の上で譲り渡しているわけです。後々揉めることはあっても、売却したくないのに買収される、というケースはゼロです。未上場でも意図せず買収されてしまう場合とは?では、本当に可能性はゼロなのか、というと実は未上場企業でも事例があるようです。たとえば、株式の45%を持つ経営者と、その経営者と仲が悪い親族の株主が40%を保有していたとします。残りの15%はその他の従業員が保有しています。この時、親族と従業員が結託すると、連立与党のように55%になります。この55%を他のライバル企業などに売却されると敵対的買収が成立します(もちろんこの過程にはさまざまな防御策もあるのですが)。資本政策、という言葉に敏感になろう極めてレアなケースであることは言うまでもありませんが、ここで言いたきことは「資本政策は慎重に」ということです。資本政策とは、誰に株主になってもらい、どのくらい出資してもらい、どのくらいの割合を持ってもらうか、というものです。例えば2人の株主が50%ずつ保有していると、仮に意見が割れた場合に支配権を持つ人がおらず、意思決定がロックされてしまいます。だから、2人ならどちらかが51%以上持つことが重要です。3人でも同様です。33.3%ずつ保有していて三者三様の意見が出た時にもまとまりません。または社長以外の2人が連合を結び、66.6%の意見を行使すれば、社長であっても意見が通らないという状況になり得ます。もし、株式がちりぢりになっている場合は、どこかのタイミングで集約することを検討しても良いかもしれません。事業譲渡は、最初で最後の最大インカムすこし脱線しましたが、要するにこうしたニュースを聞いて妙にそわそわする必要などありませんし、承継に対して消極的になる必要もありません。事業を売却するというのは、最初で最後の最大インカムです。事業譲渡だけを推奨する意図ではありませんが、選択肢の一つを容易に捨ててしまわないためにも、あらかじめM&Aの仕組みと対策を知っておくことが肝要ですね。今日はここまで!さようならこの記事を書いたライター小川篤志(獣医師)東京都出身 日本獣医生命科学大学 獣医学部卒業後、宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長として臨床経験を積む。ビジネスサイドに転向後、東証一部上場企業の経営企画部長に就任。新規事業、経営管理、PR / IR、ブランディング、マーケティングを統括。日本初のペット産業特化型ベンチャーキャピタルCEO、海外動物病院法人CEO等を歴任。FASAVA(アジア小動物獣医師会学会)日本支部 理事、ITスタートアップの経営企画担当を経て、XM&Aを創業。主な功績、受賞歴COVID-19感染者のペットを預かる「#stayanicomプロジェクト」の企画・統括・責任者(環境大臣 表彰)熊本大震災 ペット災害支援(熊本県知事 表彰)、西日本大豪雨ペット災害支援日本初のチャットボットを活用した保険オペレーションシステムの構築Web Media「猫との暮らし大百科(web media)」を創設。編集長に就任し、月間100万PV超のメディアに成長上場企業 / スタートアップ合わせ総額50億円超の資金調達を主導<その他現任> 公益社団法人 東京都獣医師会 理事、学校法人 ヤマザキ学園 講師facebook、Podcast