弊社XM&A(てんま)では、以前デジタル名刺を導入したこともありました。ほとんどが出会いの挨拶の時にだけしか活躍しない名刺よりも、デジタルでwebサイトやSNSで繋がれる方が良いと考えたからです。過去記事:XM&Aは、名刺をデジタル化しました結果として、名刺交換時の面白みや関心の惹きはありましたが、学会や会合などで多くの方とご挨拶する際には、時間がかかりすぎたり、そもそもその場にスマホを持ってきていなかったりと、残念ながら良いUX(顧客体験)とは言えなかったです。そういう学びもありながら、名刺ってなんだろうと自分なりに考えてみました。地球上の名刺の70%が流通する、名刺大国ニッポン名刺の起源は、7世紀頃の中国だそうです。不在票的に使われたのが始まりで、木や竹の札に自分の名前を記したものを"刺"と呼んだらしいです。だから「名紙」ではなく「名刺」なんですね。(出典元)https://www.rekishijin.com/39314日本でも19世紀から頃から、同じように不在票的に使われ始めたそうです。その後日本のビジネスシーンでは欠かせないものとなり、なんと全世界の名刺の70-80%が日本で消費されていると言われるほど名刺大国になりました。ナンデ日本人ソンナニ名刺好キナンダ!!!!海外で気にされるのは、名刺の情報よりも「お前は何者か」海外のビジネスパーソンとの打ち合わせをすることも多かったのですが、その時に感じたのは「名刺の扱い雑だな!」ということでした。片手で渡すのは普通だし、渡すやいなやポケットにしまわれることもしばしば。それでいて打ち合わせの最後まで名前をしっかり覚えていてくれるのはすごいなぁと思いました。もう一つの違いは、海外の方にとって関心があるのは名刺の情報よりも「あなたは何者か?何ができる人なのか?」でした。私の場合、相対するメインの外国人は投資家で、自社の事業戦略や事業計画を説明するシーンが多かったのですが、逆に獣医師であることは名刺に書かず、途中で形勢逆転したい時に口頭で明かしていたりしていました。単なる「IR(投資家へ事業や業績の説明をすること)をする人」から「獣医師でありながらIRができる人」として変換するわけです。そんな人は世界にほぼいないので、「What!?」と驚かれ、それが起死回生の説得力をもたらす意外な武器になったりもしました。日本で気にされるのは、役職一方、日本では名刺を渡した後に一番最初に関心を惹くのは、役職な気がします。役職によってこの人に裁量があるのかを判断しているのかもしれませんし、会社の中での評価を窺っているのかもしれません。いずれにしても、役職が一つの評価軸になっているのだと思います。なぜかを考えてみると、どうやら僕たちは自己紹介に苦手意識がありそうです。実際、76%の人が「ビジネスシーンでの自己紹介が苦手」という調査結果もありました。その理由は「何を話したらいいかわからない」というものです。そんな時に、わかりやすく代弁してくれるのが役職なのかもしれません。(出典元)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000063728.html自社にとって、名刺は何のためにあるのか名刺の役割は数あれど、肝心なのは自社においてなぜ名刺が必要なのか?をできるだけ解像度高く仮説を立ててみるのが大事なのかなと思います。単純な身元証明という役割なのであれば、最低限の情報掲載とローコストで事足りるかもしれません。個人を覚えてもらう目的であれば、大きく氏名を表示し顔写真も載せる方法が合っています(政治家の名刺によくある)。事業理解を促進する役割であれば、事業ポートフォリオや関連会社を記載するというパターンもあります。XM&Aにとって名刺は「ブランドの顔」なのかもしれないではXM&Aにとっては何かを考えたとき、名刺は「私たちの会社の顔面」であると定義しました。顔面というと圧がありますが、要はブランドの外見です。私たちXM&Aは、店舗型のビジネスでもなければ象徴的なプロダクトもありません。形として見えるものが無いカオナシのビジネスなのです。だからその顔となる物理的なサムシングは重要です。もう一つ。私たちのような小さな会社でもブランドは大事です。広告を打っていないこともあり、ブランドを表現するシーンは限られています。それを想像した時、直接対面でご挨拶する時に物理的に手渡しができる名刺というプロダクトは、その顔となってくれるのかもしれないと考えるようになりました。そうなってくると、プロダクトデザインがカギです。単純なレイアウトやフォントという次元はもちろんですが、3次元の紙材や印刷方法も重視して考えることにしました。XM&Aはゴレンジャー昔、私の敬愛する成城こばやし動物病院の小林先生からこう言われました。小川くん、チームはね、ゴレンジャーなんだよ。赤レンジャーだけだと離散するだろ? 緑だけだと多分負けるだろ。色んなやつがいるチームが強いんだよその言葉がずっと残っています。実際、XM&Aのメンバーは個性のベクトルがかなり違います。それでいて理念や目指すべき場所ということは妙に一致しています。それがXM&Aのブランドにおいてすごく重要なポイントです。これを名刺で表現したいと思いました。参考にしたのは電通社の名刺です。(今はそうではないのかもしれませんが)5年ほど前に電通社とお仕事をしていた時、みなさん名刺の表の色が違うのです。個々人が好きな色を選べるということで、それなりにコストはかかるはずですが異なる個性の集団というブランドを表現するには良い手法だと感じました。(出典元)https://www.group.dentsu.com/jp/about-us/history/2001-1.htmlただ、このまま真似(TTP:徹底的にパクる、ともいう)するのは気が引けるので、紙ごと変えてやろうという考えに至りました。そこでメンバーに好みの紙色を選んでもらい、三者三様の色を使うことにしました。テクスチャーもこだわりたいポイントでした。私たちが欲する「物理的なサムシング」は「触ることのできるサムシング」でもあります。ツルッとした印刷紙ではなく、ざらっとした手触りが欲しかったペラっとした触感ではなく、ガチっとした厚みが欲しかったふわっとした軽さではなく、重力を感じるくらいの重みが欲しかったのっぺりではなく、立体感のある凹凸が欲しかったこれぞ物理的なサムシング!!!!こうした物理性を求めるが故に上がっていくコストには目を瞑りながら、紙選びをしていきました。そうだ。箔押しをしてみよう箔押しがかっこいい、という概念は持っていましたがこれまでチャレンジする機会はありませんでした。箔押しとは、紙に金箔や銀箔をプレスして行う特殊印刷です。せっかくテクスチャーにこだわるなら、箔押しに挑戦しない理由はないと箔押しを行うことにしました。お願いしたのは福井県の箔押し印刷の専門店「ASADAYA」さんです。職人が手作業でプレスを行っているというクラシカルさと、今までの制作事例の美しさに共感し、こちらの印刷会社にお願いすることにしました。(出典元)https://haku-asadaya.com/デザインも一新名刺のデザインも一新しました。これまでは、お世辞にもユニバーサルとは言えないデザイン(自分でデザインしているので自己批判です)で、こと老眼保持者からはツッコミを受けることでやっと名刺交換が成立するくらいのもんでしたが、今回はもっとアクセシビリティをあげようということも意識しました。これは構想段階のデザイン素案の表面(裏面なのか?)だけですが、紙の色と箔押しの色をそれぞれ全員でわいわいと選び、おおよそのイメージが完成しました。ルージュの紙に赤箔インディゴブルーの紙にパール系の金箔ブラックの紙に黒箔そしてついに完成実際には、私のわがままで色々な注文をしてしまったため入稿までに時間がかかったのですが、入稿から納品までは驚くほど早かったです。小箱を持った時の印象は「重っ」でした。やはり普通の紙よりもずっしりとしています。この日を楽しみにしていたので、開けずにしておき、メンバー全員で飲みに行く予定を立て、クラフトビールを飲みながら開封式を行いました。赤箔が黒っぽく見えるのは反射の影響です。実際には赤です。ついでに、名刺入れも全員にプレゼント危うくハンバーガーのオイルが着くところでしたが、無事(泥酔しながら)楽しい開封式を迎えることができました。後にちゃんと撮影した写真がこちらです。箔押し部分は、キラキラと反射し、光の当たり方で表情が変わって見えます。同系色の箔押しを使うことで、ギラつきは抑えられ、シックでモダンな雰囲気の名刺になりました。やはり色も、プリントで印刷された色と、紙自体が染色されている色では全く違う質感がありました。紙の厚みは実際もう少しあっても良いかなと思いましたが、それもまた学び。裏面(表面なのか!?)の氏名やメアドなどは白インクで印刷。ここも箔押しにしたかったところですが、細かい文字が潰れるおそれがあったのでインクにしました。ということで、ここまで読破した方はいないでしょうが、XM&Aが名刺を大切にしたい理由、ここまでのワクワクなどが伝わったのではないかと思います。満足できるプロダクト(物理的なサムシング)が出来上がってよかったです!おまけ同封されていた名刺とともに、別の箔押しパターンのおまけがついていました(紙は同じです)。これも、、、、良い。良いぞ。そんな次の印刷まで楽しみになる心遣いも素敵でした。ではまた。この記事を書いたライター小川篤志(獣医師)東京都出身 日本獣医生命科学大学 獣医学部卒業後、宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長として臨床経験を積む。ビジネスサイドに転向後、東証一部上場企業の経営企画部長に就任。新規事業、経営管理、PR / IR、ブランディング、マーケティングを統括。日本初のペット産業特化型ベンチャーキャピタルCEO、海外動物病院法人CEO等を歴任。FASAVA(アジア小動物獣医師会学会)日本支部 理事、ITスタートアップの経営企画担当を経て、XM&Aを創業。主な功績、受賞歴COVID-19感染者のペットを預かる「#stayanicomプロジェクト」の企画・統括・責任者(環境大臣 表彰)熊本大震災 ペット災害支援(熊本県知事 表彰)、西日本大豪雨ペット災害支援日本初のチャットボットを活用した保険オペレーションシステムの構築Web Media「猫との暮らし大百科(web media)」を創設。編集長に就任し、月間100万PV超のメディアに成長上場企業 / スタートアップ合わせ総額50億円超の資金調達を主導<その他現任> 公益社団法人 東京都獣医師会 理事、学校法人 ヤマザキ学園 講師facebook、Podcast