さて、前編では「展示会の鉄則」について(経験則ながら)述べてきました。ここからは、つい数日前に開催された獣医学の祭典「日本臨床獣医学フォーラム2024年次大会」に出展した際の事例や、なぜそうしたかの考え方についておっぴろげてみたいと思います。パクっていただいて大丈夫です。展示会の事例ではありますが、翻って動物病院のマーケティングにも活用できる考え方などあるかもしれません。テーマは、インフルエンス今回のテーマは「インフルエンス」でした。何よりも弊社はまだ一年目の弱小企業。出展費を出すだけでも精一杯だし、もちろん展示会専門事業者に造作をお願いするなんてこともできません。したがって、一番小さなブースで、それも奥の方で、どう戦えばいいのかというのをじっくり考えました。結論からいうと、結構当たったと思います。もちろん来場者の方々のおかげでしかありません。仮説がしっかり当たったという意味です。そして失敗したところもあります。ではどんな仮説とどんな戦略で小さなブースで戦ったのか、というところを余すことなくご紹介します。まず、今回の我々の目的は自社の「認知」と「興味・関心」の獲得でした。比較検討より右側のファネル(以下の図)は捨てたと言っても過言ではありません。したがって、まずは弊社の名前とロゴ、そして何をやっているのかを少しでも多くの方に知っていただく機会として目標設計をしました。ブースの中で戦うのではなく、ブースの外で戦うという考え方まずやったことは、強みや弱みを洗い出し、SWOT分析というフレームワークに落とし込みました。SWOT分析とは、以下の4項目から成り立ちます。【S】Strength:自社の強み【W】Weekness:自社の弱み【O】Opportunity:機会【T】Threat:脅威なぜSWOTを使ったかというと、簡単だからです。他にも方法はありますが、ここでは割愛します。そして、これを自社の状況に当てはめました。それが以下です。これを穴が開くほど眺め、どのように戦えば良いのか考えていきました。わかってきたことは、ブースの中で戦うには限界がある、ということです。事務局側も奥の方まで、小さなブースまで回っていただけるよう最大限配慮してくださっていますが、それでも限界があります。今回は、来場者にとっては「学会講義の聴講」という主目的があるため、展示会場の部屋にすら足を運ばれないことだってあります。だとしたら、ブースの外で戦うにはどうすれば良いかを考えました。そして行き着いたテーマ(戦略)が「インフルエンス」です。このために2つの戦術を実施しました。戦術その1|ラムネを配布したラムネを配布しました。水じゃダメでした。お菓子でもダメでした。ラムネじゃなきゃダメだったのです。_人人人人人人_> ナゼ ラムネ < ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄<ラムネじゃなきゃダメだった理由>強烈に「違和感」があるから開栓するまでに、時間が作れるからビー玉の心地よい音が鳴るから歩きながら飲むにはちょうどいい量だから(200ml)なんでみんなラムネ飲んでんの?という違和感ラムネは「違和感」を生みます。展示会場でラムネを飲んでいる人を見たことがありますか? ないはずです。ラムネの展示会以外ないはずです。でもここは獣医学会。もちろんラムネはありません。だから、見た人は違和感を覚えます。なんでみんなラムネ飲んでんの?と。その違和感を作り、そして周りの方に違和感を連鎖していくこと(インフルエンス)を企図しました。違和感だけだったら、他にも商品があったのですが、ラムネには他にも利点がありました。開栓するまでのちょっとした「間」が、会話を生むそれは、開栓するまでに会話する時間が作れることです。ご存知、ラムネはビー玉を押し込んで開栓します。そこに、ちょっとした時間が生まれます。そこで会話をすることができるのです。興味本位もありますが、きっかけづくりに「最後にラムネ飲んだのはいつですか?」とか聞いてました(意外にみなさん居酒屋でラムネサワーを飲んでいた模様)。きっかけができればその後に、本来紹介したい事業についてもスムーズに会話することができます。また、ラムネだけは飲む時に「音」が鳴ります。カランカランとビー玉が転がる例の音です。これは、展示会場でも耳を惹きます。だから、PETじゃなく、ビンじゃなければダメでした。かつ、手渡される飲み物として500mlは多いけど、ラムネ瓶には200ml程度しか入っていません。だから、歩き回るにはちょうどいい量なのです。宝探し的なアクティビティで、インフルエンスをなんでラムネ? → 私も飲みたい → どこだろう → 見つけた!というアクティビティを作ることで、小さいブースでも戦えるのではないかというのが仮説でした。そして仮説は当たりました。「ラムネここで配ってたんだ!」と声をかけてくれた方も多くいらっしゃいました。ちょっとした宝探し状態です。結果、数百本仕入れたラムネは完売(売ってないですが)しました。本来のターゲットは獣医師でしたが、配布するときの条件はつけませんでした。学生でも看護師さんでも出展社でも、誰でもWelcome!というスタイルで多くの方に飲んでいただきました。だってインフルエンスすることが目的ですから。戦術その2|XM&A(てんま)Tシャツを増殖するバグを起こしたい繰り返しですが、弊社は立ち上げたばかりの小さな企業ですし、なにせ小さなブースです。目的は「認知」や「興味・関心」の獲得ですから、とにかくロゴや企業名を視認していただくことが重要でした。しかし、ブース以外の場所でXM&A(てんま)という企業名を出すことは簡単じゃありません。だって、どの企業も同じことを考えます。そんな時、相場はバッグの配布と決まっています。今回も、かなり多くの方が企業名が書かれたバッグを持って歩いていました。ちなみに、バッグを配布する場合は大きければ大きいほどいいです。他企業が配布したバッグを自社のバッグの中に入れて吸収できるため天邪鬼な私は、バッグよりいい方法がないかな〜と考え、Tシャツを配布することにしました。ただ配布するだけではなく、その場で着ていただくことを条件にするという方法です。XM&Aティシャツを増殖するというバグを起こしたかったのです。なんでみんなあのTシャツ着てんの?を作れるか重要なのは、どれだけ「この会場内で着ていただけるか」です。僕らはスタッフが2人しかいません。だからTシャツバグを起こすことで、「なんか、みんなあのTシャツ着てるけど何なんだ!?」と思ってもらえるかがカギでした。だとするといくつか必要な要素があります。その場で着ていただけるくらいのカッコいいデザインジャケットを着用しても覗くロゴ黒より白(ジャケットが黒系なので)タダでもらえる、というありがたみの醸成そう、だからまずはデザインを死ぬほどこだわりました。着ていただくのに、ダサいわけにいかなかったからです。このデザインには、自分で自分に「お前なにやってんだよ」と突っ込みたくなるくらい時間をかけました。どうです? なかなかでしょう? あとはロゴがジャケットから覗くようになっているかとか、黒系(が多い)ジャケットでも映えるためには何色がいいか、なども検討しました。結果、白を選びました。実際には、着ていただくのは結構難しかったやってみてわかったことは、やはり見ず知らずの方に着ていただくのは難しかったです。特に女性はその日の服装にもかなり気を遣っているし、Tシャツにファンデが付いてしまうのも避けたいはず。本当は「3,000円 or 無料」として、着ていただけるなら無料、としたかったのですが、わざわざブースに来ていただいたどうしても着れない方に ¥3,000も支払ってもらうのは忍びなく、結果的に全員無料であげてしまいました(苦笑)。「払うよ!」と言ってくださった方も多かったのですが。自社のSTRENGTHは「知り合いの多さ」幸いにも、この業界が長いことで、私には多くの友人や知り合いがいました。ありがたいことに、著名な先生方ともそれなりに関係性がありました。ここは、そんな先生方が多く参加する学会です(Opportunity)。知り合いの多さを自慢したいわけじゃありません。これが客観的に見た時の「自社の強み」と「機会」だったのです。というか、僕らにはこれくらいしかありませんでした。そして、このことを事前にSNSで予告もしていました。だから「おー!これか!」という声もかなりいただきました。ブースで出会ったばかりの方には無理を言えませんでしたが、気心知れた先生には無理を言って、このTシャツを着ていただきました。しかも会場内外問わず(本当に本当にありがとうございました泣)。だから、「あの先生が着てたTシャツがこれですね!ください!」という方も何人もいらっしゃいました。パジャマでもいい。着るたびに、思い出してほしいもう一つ、Tシャツにした理由は、露出機会の多さです。それなりに使えるTシャツであれば、パジャマ程度でも着ていただくことができます。その度に、無意識にロゴや我々の企業名を見ます。これを露出機会といいます。CMでも自社名や商品名を連呼するパターンがありますよね。あるいはサウンドロゴといって「お、ねだん以上。ニトリ」とか「ちゅ〜るちゅ〜る」などの音楽も。こうしたコンテンツを目耳にする機会を露出機会と表現します。これが多いほど、覚えていただけるからです。展示会においては、その場限りのノベルティでは、棚にしまわれてしまったりして二度と日の目を見ないこともあります。ですが、新しい企業だからこそ、何度も見ていただける機会を、思い出していただける時間を作りたくて、多少のコスト(お金と時間)をかけてでも、Tシャツを作ったというのが経緯です。最後にいかがでしたか? 今回の施策がどの企業にも当てはまるといったらそうではないとは思いますが、新興企業でもブースが小さくても、「だからこそ」の戦い方というものは探せばあるものです。どの企業にも強みがあり、その強みを生かすマーケティングはできるはずで、今後のヒントになれば幸いです。前編の「展示会の鉄則編」はこちら小川篤志(獣医師)東京都出身 日本獣医生命科学大学 獣医学部卒業後、宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長として臨床経験を積む。ビジネスサイドに転向後、東証一部上場企業の経営企画部長に就任。新規事業、経営管理、PR / IR、ブランディング、マーケティングを統括。日本初のペット産業特化型ベンチャーキャピタルCEO、海外動物病院法人CEO等を歴任。FASAVA(アジア小動物獣医師会学会)日本支部 理事、ITスタートアップの経営企画担当を経て、XM&Aを創業。主な功績、受賞歴COVID-19感染者のペットを預かる「#stayanicomプロジェクト」の企画・統括・責任者(環境大臣 表彰)熊本大震災 ペット災害支援(熊本県知事 表彰)、西日本大豪雨ペット災害支援日本初のチャットボットを活用した保険オペレーションシステムの構築Web Media「猫との暮らし大百科(web media)」を創設。編集長に就任し、月間100万PV超のメディアに成長上場企業 / スタートアップ合わせ総額50億円超の資金調達を主導<その他現任> 公益社団法人 東京都獣医師会 理事、学校法人 ヤマザキ学園 講師facebook、Podcast