動物病院の事業承継で起きやすいトラブル事例と対策をご紹介するシリーズ記事。今回のテーマは、「気づけなかった近隣トラブル」です。本事例は、実際に起きた事例をもとに解説用に改変してご紹介しています。特定の病院や個人を指すものではなく、当社が仲介した事例ではありません。飼い主さまやスタッフとの間にトラブルがないかは、事前に確認しておきたいポイントどのような事業を営んでいても、顧客や従業員、取引先などとの間で、なんらかのトラブルは抱えてしまうものです。むしろゼロである方が珍しいといっても過言ではありません。だから、トラブルがあること自体が問題なのではありません。事業承継では、そのトラブルの内容と程度を双方で事前に共有しておくことがポイントになります。トラブルがあるからといって、承継できなくなるわけではない承継予定の病院がトラブルを抱えているかどうか(といっても、どこからトラブルと定義するのか難しいところですが)は、事業承継を進める上で大きな要素です。しかし、あるからといって終わり、というものでもありません。その内容や程度に応じてお互いが納得できるのであれば、継続して協議されます。一方で、抱えているトラブルを相手方に伝えていなかった場合には、事業承継後に深刻な問題になることがあります。そのトラブルが「承継する事業に由来すること」であればなおさらです。往々にしてそのトラブルは譲受側の運営にも引き継がれ、その後の事業に影響を及ぼしてしまうためです。原則は、トラブルの有無を訊くべき&言うべき原則として、譲渡側も譲受側も、その後に相手に負担や迷惑がかかる可能性があるトラブルは、承継前に伝えておくことを心がけましょう。それをしっかり書面(やメール)にして残しておくということも重要です。「聞かれなかったので言わなかった」「言われなかったので無いものと思った」ということがないように、直接相手に尋ねたり、契約書でも言及しておくことが望ましいです。Case Study|近隣からの執拗なクレーム。承継後にトラブルの存在に気づいたケースここからは半分架空ですが、半分は本当にあった事例です。承継直後に、度を超えた嫌がらせが...1年間の協議を重ねて、晴れて事業承継をすることに。前の病院のブランドを残す方がメリットが大きいと感じ、病院名は変えずに診療を始めました。1ヶ月もしないうちに、病院のポストにスズメの死骸が入れられているのに気づきました。自分自身もかなり驚き、従業員に伝えると怖がると思ったので誰にも言わず、そっと供養だけして済ませました。そのほかにも、いたずらなのか嫌がらせなのか、細かいものがいくつか続き「自分が患者さんに何かしてしまったのかな」と不安な気持ちが募っていました(続く)病院の看板(病院名)を変えないというのは、メリットもありますがデメリットもあります。そのブランドに対して悪い印象を持っている方にとっては、ブランドの継続はネガティブに働くこともあるからです。実は前からあった隣人とのトラブルその後、スタッフと雑談がてら話していると、看護師の一人が「最近、あの人おとなしいね」と言いました。ピンときたので詳しく話を聞いてみると、数年前から嫌がらせをしてくる特定の近隣住民がいるということがわかりました。以前、入院中の犬の散歩中、その住民の足に不意に噛みついてしまったことが原因でした。元から精神的に不安定な方だったようで、その矛先がこちらに向いているという話でした。この件は、事業承継時での話し合いでは全く挙がっていない話でした(続く)実は、スタッフでもそのトラブルがあることを認識しているくらい、院内では当たり前のことでした。しかし、外部から承継したその先生だけはこの事実を知らずにいた、というのは実は結構あるあるな事例です。承継した先生にとっては初めてのことなので、余計に焦りを感じてしまうはずですよね。風評被害は、結構広がっていた口コミも調べてみたところ、その方と思われる人物からgoogleでの悪い口コミが、やたらとたくさんありました。Twitterでも、おそらくその方が当院の誹謗中傷をするためだけのアカウントを作り、実際には起きていないことまで書き連ねていました。本来は事前に調べておくべきでしたが、融資や準備に四苦八苦していて、そこまで詳しく見ていなかった自分も甘かったと思っています(続く)たしかに、本来はその先生が自ら調べておくことが大切でした。この病院は「顧客から見てどんな病院なのだろう」という下調べです。口コミというのは悪いものほど書かれやすいことが普通といえば普通なので、これ自体が問題ではなく、事前にトラブルの種があるとわかっているかどうかが重要でした。もし事業承継前にこれを認識しておけば、事前に前院長と協議をしておくことができたはずです。例えば、弁護士に依頼してもらい、承継前に解決までしておいてほしい、という交渉などです。前院長は意図的に言わなかったわけではなく、慣れてしまっていただけ(悪意はない)風評被害まであるとなると営業や集客にも関わることなので、前院長に相談しました。自分も頭に血が昇っていて「わざと言わなかったのですか!」と語気を強めてしまいましたが、実際は意図的ではなかったようです。前院長としてはあまりに常習化していたので、慣れてしまっていたようです。特段スタッフに危害を加えるわけでもなく、たまにエキセントリックなことはするものの、実害はないという判断でした。口コミやTwitterについては、そもそも知らなかったようです。もっと調べておくべきでした。当事者同士で事業承継の議論をすると、さまざまなことに目配せをしながら進めなければならないため、こうした論点が漏れてしまうことはあります。こういうときに仲介者の存在は大きいです。第三者的な視点で「あれを調べておきますね、これをチェックしましょう」など細かいところまで目を行き届かせてくれるからです。ですが、動物病院事業自体に慣れがないとこれもまたなかなか難しいものです。XM&Aでは、実際に譲受する側として、つまり当事者として事業承継に携わっていた経験や、数十件の動物病院を経営していた観点から、動粒病院に特有の飼い主様トラブルなどの細部まで、しっかりケアします。予防策|どうすればよかったか譲渡側は、トラブルの存在をあらかじめ相手に伝えましょう譲受側は、トラブルの種や実際に係争中の案件がないかを必ず自分から確認しましょうリスクがある場合には、その対応策について互いに誠実に協議しましょうトラブルの内容や協議の結果は書面(メールでも可)に残しておく。できれば契約書にも記載をしておく解決できそうな場合は、承継前に解決しておくのがベスト【関連記事】関係性を崩したくなくて、契約書をシンプルにしたら大変なことになった事例【関連記事】従業員への伝え方|動物病院の事業承継トラブル事例この記事を書いたライター小川篤志(獣医師)東京都出身 日本獣医生命科学大学 獣医学部卒業後、宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長として臨床経験を積む。ビジネスサイドに転向後、東証一部上場企業の経営企画部長に就任。新規事業、経営管理、PR / IR、ブランディング、マーケティングを統括。日本初のペット産業特化型ベンチャーキャピタルCEO、海外動物病院法人CEO等を歴任。FASAVA(アジア小動物獣医師会学会)日本支部 理事、ITスタートアップの経営企画担当を経て、XM&Aを創業。主な功績、受賞歴COVID-19感染者のペットを預かる「#stayanicomプロジェクト」の企画・統括・責任者(環境大臣 表彰)熊本大震災 ペット災害支援(熊本県知事 表彰)、西日本大豪雨ペット災害支援日本初のチャットボットを活用した保険オペレーションシステムの構築Web Media「猫との暮らし大百科(web media)」を創設。編集長に就任し、月間100万PV超のメディアに成長上場企業 / スタートアップ合わせ総額50億円超の資金調達を主導<その他現任> 公益社団法人 東京都獣医師会 理事、学校法人 ヤマザキ学園 講師facebook、Podcast