前回までの復習前編を公開したところ、かなりのアクセス・反響がありました。釈迦に説法の内容も多いのですが、今回は後編です。ざっと前回をおさらい。動物病院には、外的なマーケティング活動と内的なものがありそうです。外的とは「まだ見ぬ飼い主さま」に向けたもの。内的とは「既に顧客となっている飼い主さま」です。迫り来る飼育頭数の減少、そして競争環境の激化に向けて、外的な活動にも注視してみませんか?というのが前回までの内容でした。前回記事|動物病院のマーケティングって何だろう(前編)動物病院のマーケティングは、割に合っているのか?今回の後編では、広告費(集患)において、どのような基準で広告を出していけばいいのか、あるいは今出している広告が割に合っているのか、を中心に解説します。割に合う動物病院の広告費って、どう考えればいい?広告を出したことはありますか? 商店街に頼まれてとか、開業した時にHP制作会社から「googleで広告出しましょう」と言われたり。意外と漫然と支出し続けているものもあるのでは。お金を払って広告を出したことがある先生なら、誰もが考えたことがあるはず。「これって割に合っているの?」、いわゆるコスパ(コストパフォーマンス)というやつです。ところで「き◯た歯科インプラント」ってめっちゃ見ません?私が住んでいるのは東京の世田谷ですが、この辺りの首都高沿いにめっちゃ出現する広告といえば、き◯た歯科インプラントの看板です。一度見たら忘れない、アレです。うちの子供達も、看板を見つける度に、ウォーリーを発見したように騒ぎ出します。その広告費は、なんと年間3億円以上とも言われ、ものすごい額です。この歯科医院は八王子にありますが、世田谷に看板を出して誰が来るんだ、、とも思います。でも、広告を出し続けているからには経済合理性が成立しているのでしょう(業界では賛否はあるようですが)。おそらく経営に関してはかなりクレバーで大胆な方のはずです。だから、合理性がないのに広告を出し続けていることはないはずです。人は、そこに「顔」があるとつい見てしまうちょっと論点から逸れますが、看板の内容に注目してみると、院長先生の顔がとんでもなく大きく掲載されています。人は潜在的に「顔」に注目するようにインプットされています。特に、技術職の強い歯科分野では、何をやるかより誰がやるか、が重視されやすいというのもあるのかもしれません。まぁ、このくらいにしておきましょう。動物病院のマーケティング(新規顧客獲得)施策がうまくいっているかどうかは、簡単な計算式で算出できるここでは、あえて病院経営というスタンスで考えます。なので、顧客などと表現しています。私自身、獣医師として諸々を理解した上での「あえて」ですのでその点、ご容赦ください。まずは簡単に用語解説から抑えますLTV:顧客1名の生涯から得られる収益(Lifetime Value)CPA:顧客1名あたりの獲得コスト(Cost Per Acquisition)Unit Economics:顧客あたりの広告費の経済合理性指標詳しいことは後で解説しますので、なんだか横文字が並んでいるけど、だいたいこういうことね、くらいで大丈夫です。細かい部分は飛ばしてもOKです。最後にまとめますので。動物病院のLTV(顧客あたりの生涯価値)は、約30万円LTV(Lifetime Value)とは、1顧客が生涯で自分の病院にかけてくださる金額のこと、を言います。もちろん地域でも違うし、犬と猫でも違うし、個体によっても全然違います。ここではあくまで一般的な水準で平均的に検証してみましょう。この料理に使うための材料は以下です。そして、右側にある数値がだいたいの平均値です。顧客あたり年間収益:6万円平均来院継続期間:5年間細かい算出根拠はありますが長くなるのでバサっと省略します。このような仮数値で推定すると、動物病院でのLTVは30万円となります。LTV = 6万円 × 5年間 = 30万円 つまり、1顧客が来院すると、およそ30万円の収益が見込めるということです。ではこれに対して、いくらまでの広告費がかけられるのでしょうか?動物病院のユニットエコノミクス(顧客あたりの経済合理性)は5以上が理想ユニットエコノミクスという考え方があります。これは、広告に関する経済合理性を考える上でよく使われる指標です。この指標は、基本的にはwebサービス(サブスクモデル)から始まっている概念なのですが、動物病院にも転用できると思っています。まず、ユニットエコノミクスとは、以下の式で求められます。Unit Economics = LTV ÷ CPALTV(30万円)を、CPA(顧客当たり獲得コスト)で割った数値です。このユニットエコノミクスが高ければ高いほど、優秀なマーケティングができていると言えます。そして、ユニットエコノミクス成立条件は「3以上」とされています(あまりはっきりとした根拠はないようなのですが)。ただし、個人的には動物病院では「5以上」は欲しいところと考えています。今回の動物病院の事例に当てはめてみた場合、LTVが30万円でした。なので、ユニットエコノミクスが5以上になるには、CPAという数字が6万円未満となっていることが理想です。おそらく、き◯た歯科インプラントは、この経済合理性がしっかりと取れているので広告を出し続けているのでしょう。でないと続けるだけ赤字になるからです。動物病院の顧客あたり獲得コストでかけて良いのは「6万円まで」CPAとは、1顧客を獲得するためにかかるコストを指します。先に述べた事例で言えば、その上限額が6万円ということになります。顧客1名(1頭)を獲得するためにかかるマーケティングコストが、6万円未満であればいいのです。これであれば、要するにマーケティングコストが割に合っている状態です。どうでしょう? 実は結構広告費にかけられるという印象ではないでしょうか。 もちろんかければかけるほど、利益を圧迫してしまうので無理は禁物ですが、google広告など、色々な取組みに活用してみても良いかもしれませんね。自病院の決算書から、ざっくり計算してみましょう。計算は簡単です。昨年度の決算書の中にある「広告宣伝費」を見てください。次に、顧客管理システムなどから、昨年度1年間の「新患数」を合計してください。CPA = 広告宣伝費 ÷ 新患数これで計算できます。あとは30万円で割ってみてください。そうするとユニットエコノミクスが算出されます。どうですか? 広告宣伝費を積極的にかけている病院はそう多くないと思いますので、ほとんどは、ユニットエコノミクスが成立しているのではないでしょうか。十分に成立しているのであれば、5年後、10年後のことを考えて、今のうちからマーケティングコストを少し増やしてみるのも手だと思います。動物病院の経営で大事なレバーはシンプル。「新規を増やし、解約を減らす」だけなぜこんな話をしているかというと、新規顧客を獲得し続けることは、とても大事だからです。私はよくお風呂に例えるのですが、上図のように、一定の湯量(顧客数)を維持するためには、少なくとも蛇口の水量(新患数)と排水量(解約数)が釣り合っていなければいけません。よく動物病院の経営コンサルで聞くのは、「診察件数が大事」「単価を上げた方がいい」「駐車場の数を増やそう」などがありますが、私はそうは思いません。一番は、どれだけ多くの顧客(飼い主さま)にいていただくかに尽きると思います。そのためにできることは「新規を増やし、解約を減らす」。ただこれだけです。何度も出ているファネルという図ですが、解約を減らすという右側部分の取組みは、ほとんどの病院がすでにできていると思います。ただ、転院は防げても死亡は必ず起こります。そうなれば、やはり左側の「外的な活動」にもスポットライトを当てても良いのではというのが私の意見です。ここがすべての源泉だからです。そして、いますべてのお風呂の水脈(飼育頭数)は減りつつあるからです。動物病院の新しい事業承継「カルテ承継™︎」で、新規顧客を獲得するのはどうでしょう?他方で、新規顧客獲得に強い動物病院は少数派です。であれば、「カルテ承継」で新規顧客を獲得するという方法は合理的です。カルテ承継については以下の記事でも詳しく紹介していますが、ざっくり言うと、閉院する近隣病院のカルテを自病院が承継するというものです。つまり、マーケティング努力をせずに、新規顧客を一気に獲得できるというものです。カルテ承継の場合、CPAは1.6万円。ユニットエコノミクスは18以上の場合も仮に、カルテ単価1万円として、承継したカルテ数(1,000件)のうち6割が来院してくれたとします。そうすると、以下の計算式になります。新患数:600件LTV:30万円CPA:16,667円ユニットエコノミクス:18ユニットエコノミクスは、5以上が望ましいと書きましたが、この場合は18という高いコストパフォーマンスであり、合理的な新規顧客の獲得方法と言えます。マーケティングのためにあれこれと時間をかけるよりも、ずっと労力を減らせることもメリットです。1,000万円という大金をキャッシュで保有しているケースも少ないので、借入が必要になりますが、近年は事業承継関連の融資は受けやすい傾向にあります。逆に、ご自身の病院を閉院するときに、望ましい承継者がいない場合には、カルテ承継で次の病院に受け継いでもらうことで、飼い主さまの獣医療インフラをシームレスに紡ぐことができます。もし、新規顧客の獲得に課題感・成長余地を感じているようであれば、下記のフォームからお気軽にお問い合わせください。この記事を書いたライター小川篤志(獣医師)東京都出身 日本獣医生命科学大学 獣医学部卒業後、宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長として臨床経験を積む。ビジネスサイドに転向後、東証一部上場企業の経営企画部長に就任。新規事業、経営管理、PR / IR、ブランディング、マーケティングを統括。日本初のペット産業特化型ベンチャーキャピタルCEO、海外動物病院法人CEO等を歴任。FASAVA(アジア小動物獣医師会学会)日本支部 理事、ITスタートアップの経営企画担当を経て、XM&Aを創業。主な功績、受賞歴COVID-19感染者のペットを預かる「#stayanicomプロジェクト」の企画・統括・責任者(環境大臣 表彰)熊本大震災 ペット災害支援(熊本県知事 表彰)、西日本大豪雨ペット災害支援日本初のチャットボットを活用した保険オペレーションシステムの構築Web Media「猫との暮らし大百科(web media)」を創設。編集長に就任し、月間100万PV超のメディアに成長上場企業 / スタートアップ合わせ総額50億円超の資金調達を主導<その他現任> 公益社団法人 東京都獣医師会 理事、学校法人 ヤマザキ学園 講師facebook、Podcast