動物病院の事業承継・M&A徹底議論というテーマで、3回に分けてお送りする連載記事。本記事は、VETSTECHセミナーでの講演を記事として再構成したものです。Vol.1「廃業か承継か」、Vol.2「事業承継とお金の話」に続き、Vol.3の最終回では、相手となりうる個人獣医師や企業をテーマに、上野先生と対談します。ナビゲーター:佐倉星コメンテーター:上野弘道(日本動物医療センターグループ代表、東京都獣医師会 会長)スピーカー: 小川篤志 (XM&A/株式会社THE JUICY 代表、東京都獣医師会 業務執行理事)本記事はVETSTECHにおける対談セミナーをもとに、発言の趣旨と掛け合いを保って、読みやすさに配慮した整文・再構成をしています。対談部分は逐語録ではありません。病院を引き継ぎたいのは誰? 30代の獣医師に起きる生活の変化ー 病院を譲り受けるのは、具体的にどのような方たちなのでしょうか。やはり、資金力のある企業グループが多いんですか?(小川) 企業グループはもちろんですが、僕たちが接する中では、個人の先生方も多いです。なぜかというと、独立するときに事業承継を考える方が最近はすごく増えているからかなと。ー なるほど。その個人の先生方のデータも、ご用意いただいているんですよね。それが、こちらです。(小川) XM&Aに登録してくださっている個人の獣医師のデータを分析してみました。これによると、年代のボリュームゾーンは30代。男性が多く、結婚されている方がほとんどです。(小川) 30代だと、結婚、お子さんの誕生、小学校への入学など、生活の節目があるんですよね。そういうときに、そろそろ独立した方がいいのでは、と考えて相談に来られる方が多いなと感じます。(上野) なるほどね。配偶者がいることも、事業承継を選ぶ感覚につながるんでしょうか。ゼロからではなく、ある程度売上があるところから始めるわけですもんね。(小川) そうだと思います。子育てにもお金がかかりますから勤務医のままでは..と考える方も多いです。あとは、承継後に、配偶者に手伝っていただけることも大きいですね。受付のスタッフを一人採用するだけでも、大変ですから。(上野) そうか。面白いね。(小川) すでに副院長や分院長などの役職に就いている方もいらっしゃいます。自己申告ではありますが、一般的な外科はできます、ある分野の専門性もあります、と回答される方もいますね。売上5,000万円ほどが個人獣医師にはフィットか。それでも「売上1億円、2億円の病院を個人で?」ー へえ! そうした先生方は、どんな病院を求めているんでしょうか?(小川) 希望する売上規模を聞いた結果もあります。ボリュームゾーンは売上5,000万円くらいでしょうか。 上野先生、ご覧になってどうですか?(上野) 個人で、ですよね。一人や夫婦二人で診る規模感を考えると、売上5,000万円前後は、一つの範囲として考えやすい気がします。逆に、1億円とか2億円の病院を希望する方もいるって、結構すごいなと思って。引き継ぐために借りたお金は、返さなきゃいけないでしょう。スタッフのマネジメントも必要ですよね。 引き継いだ後に従業員との関係が悪くなれば、辞めてしまうかもしれない。(小川) そうですよね。(上野) ただ、それでも自分ならできるぞ、という方がいるんだと思うと、逆に明るい未来を感じますね。(小川) 実は、大きめの病院を希望している方には、従業員承継を想定した登録も含まれています。すでに売上が1億円以上ある病院で、副院長に譲りたい、というケースですね。(上野) ああ、なるほど! そこで働き続けているから、怖くないわけですね。マネジメントも、もう分かっていると。(小川) そう。実はこの副院長に向けた承継はもっと注目されるべきでは? と思うことも多くて。従業員承継については、後ほどもう少しお話ししたいですね。地方だから不利じゃない。都心だから有利でもない。市場と暮らし、どちらも大事(上野) 希望する地域は、首都圏と大阪などが多いですよね。都心は市場がありますが、その中で競合に勝ち抜く大変さもあります。(小川) そうですね。(上野) 地方都市なら競合が比較的少ないところもある一方で、今後その地域の市場がどうなるかは考えなければいけない。(小川) あとは、生まれ育った街や、配偶者の実家の近くということを重視する先生が多いです。都心か地方か、という観点だけでなく。(上野) そうだよね。実家が近いのは大事。(小川) そういう意味では、事業承継は、好きな場所で、好きなタイミングに、ぴったりの病院が見つかるとは限りません。完全に条件が一致するのは難しいので、ここは譲れないけれど、ここは調整できる、と考えて選ぶ方もいます。ー 上野先生が譲り受ける側だったら、どんなエリアを選びますか?(上野) 僕はやっぱり、市場を見ますね。魚がいないところに釣りざおを垂らすのではなく、魚がちゃんといるところに垂らすべきだと思うんです。ただ、隣にすごく技術のある人がたくさんいたら、勝てないかもしれない。市場と競合のバランスを見ると思います。(小川) 市場と競合のバランスですね。(上野) うん。実際、知り合いに開業した後に病院を閉じた方もいます。決して技術がなかったわけでも、人柄が悪かったわけでもない。それを見て、開業すれば誰でもうまくいくわけではないんだ、と感じました。(上野) うまくいっている病院は目につきますが、静かに閉じていく病院は、なかなか見えません。だから、地域を考えることは大切ですよね。新規開業には、始めてみないと分からない面がある。その点、事業承継なら、少なくとも今これくらいの売上がある、という実績を見られるわけですよね。いつから動き出し、どう動けば良いのか?ー ところで、事業承継を考えようと思ったら、いつから、どう動き始めたらいいんですか?(小川) 何年前から動き出しても、早すぎることはないです。事業承継は予定どおりに進まないこともありますし、地域によっては相手探しに数年かかるかもしれません。(上野) そうだよね。地方だと特に。(小川) M&Aはよく、結婚によく例えられるんですよ。(上野) ほう! どういうことですか、それは?(小川) 結婚するためには、相手と出会う機会をつくらなければ始まりませんよね。少なくとも「募集中です!」という看板をこうやって掲げないと、いつまでも結婚はできないということになります。なので、まずは探すことに前向きになってみることからです。ー みなさんどうやって相手を探しているのですか?(小川) 個別に出会いがあれば別ですが、さすがに大っぴらに「事業承継を考えてます!」とHPに出すことはできないと思うので、XM&Aのような仲介会社に登録しておくのが一般的です。それ以上に進むかどうかは別にして、こういう先生がいますよ、という案内を見ていると「この地域で、この年齢で、この分野が得意なら、うちにかなり合うんじゃない?」という人が見えてくるかもしれない。まずはそこからですかね。(上野) そうか。アクションは大事ですね。恋愛でも、いろいろな経験があった方がいいじゃないですか。(小川) たくさん経験しましたもんね(笑)。(上野) いやいやいや、違います。みんな聞いてるから!(笑) つまり、この人しかいないと思って、それが全てになってしまうと、うまくいかなかったときのダメージも大きい。いろいろな相手の話を聞いて、自分の目を養っておくということです。どんな質問をすると、どんな答えが返ってくるのか。そのやり取りを増やしておくのは大事だと思いましたね。(小川) はい。1人のうちの1なのか、100人のうちの1なのかでは、見る目も変わってきますからね。ただ、仲介は営業会社がほとんどなので、あまり営業されすぎても困る場合は、ちょっと慎重になった方がいいですね。XM&Aは営業しないスタイルなのでしませんが。最低報酬にも注意を。せっかくの譲渡額がほとんど無くなってしまうケースもー ほかにも、仲介会社を選ぶポイントはありますか?(小川) 手数料の最低報酬ですね。必ず支払わなければいけない報酬が設定されていることが多いんです。例えば、5,000万円で譲る病院に対して、料率が5%なら、計算上の手数料は250万円です。ところが、最低報酬は1,000万円です、とか2,000万円です、など。(上野) あ、ちょっと待って。今の話は、5,000万円で売れて、仲介会社の手数料は250万円のはずなのに、1,000万円引かれてしまうということ?(小川) はい、そうです。(上野)そんなかかるの! XM&Aの最低報酬は?(小川) ありません。ゼロです。おそらく唯一、最低報酬を設けていない会社だと思います。(上野) ええ! すごいね。(小川) 僕たちが以前お手伝いした中でも、院長が診療を続けられず、長らく閉院していた病院をご承継したケースがありました。事業価値はほとんどつかなかったのですが、その場合には僕たちの報酬もほとんどありません。でもそれでいいんです。(小川) 僕は、事業承継はこれからの動物病院業界にとって、すごく重要な方法だと思っているんです。仲介者などの報酬よりも、次の方を見つけることが必要な場面もある。そこは、お金の話だけではない部分ですね。(上野) なるほどね。ー 今のアドバイス、チェックリストにしてほしい方も多そうですね。副院長への「従業員承継」は一番良い方法ではないだろうかー そろそろ終わりの時間ですが、先ほど言っていた「副院長への承継」はすごく相性が良さそうですよね(小川) そうなんです。僕は、従業員承継が一番いい承継の形だと思っているんです。その病院にいる先生なら、病院のことをよく知っていて、スタッフとの絆も、患者さんとの関係もあります。(小川) そういう方が引き継いでくださるのは、病院にとっても、若い先生にとっても、今の院長にとっても、かなりハッピーな選択肢だと思います。(上野) うん、そうだね。(小川) もし副院長などに、この人になら病院を継いでもらってもいいな、と思える方がいるなら、早めに声をかけた方がいいです。プロポーズした方がいい。他の病院に移ったり、別の病院を引き継いだりする前に。(上野) プロポーズね! やっぱり、そっちの話に持っていきたいんだね(笑)。(小川) バレました?(笑)。病院にとっても顧客にとってもスタッフにとっても、何より相手本人にとっても一番の選択肢です。フラれることを怖がって声をかけないより、ダメ元・なる早で動くことをお勧めします。(上野) それも安心の承継ですよね。従業員にとっても、地域社会にとっても。(小川) そう思います。逆に、副院長がいる病院に、別の先生を新しい院長として迎えると、どうでしょう。その関係性は微妙なバランスになり、うまくいかないこともあります。だから、まずは身近な副院長を中心に考えてみるのも、一つの方法だと思います。(上野) そうですね。ー ありがとうございます。とても勉強になりました!皆様、本日はありがとうございました!(上野、小川)ありがとうございました!Vol.1:上野会長と語る「廃業か承継か」地域獣医療を連鎖するための事業承継Vol.2:上野会長と語る「事業承継とお金の話」動物病院の譲渡対価とは