動物病院のM&A・事業承継は「病院ごと承継する」がこれまでのスタンダードでした。ゆえに、承継相手を探すのは難しく、結果として「承継したくてもできない」という課題がありました。ここでは、動物病院の新しい事業承継のかたち「カルテ承継」について解説します。< 目次 >動物病院だけじゃない、M&Aの波いま動物病院業界では、急速にM&Aが広がっています。実は、これは動物病院に限った話ではありません。日本全体に同じことが言えます。日本におけるM&A成約件数は90年代後半から広がりを見せ、ここ10年間でおよそ2倍にまで増加しています。これに伴って、M&Aという言葉のニュアンス自体も変わってきているように感じます。ひと昔前は、ファンド等による「敵対的買収」のようなセンセーショナルな新聞の見出しが並んだせいか、あまり良いイメージはありませんでした。あるいは、「M&A=身売り」といったイメージもあったかもしれません。しかし近年では、持続可能な企業経営のために重要な方法として認知されるようになりつつあります。M&Aや事業承継は、実は動物病院でも古くから行われてきました。最もイメージしやすい例は、獣医師になった子女・子息に動物病院を譲る、というものです。ところが、少子化の影響か多様性の功罪か、昔ほど「子が家業を継ぐ」ということも少なくなってきました。「子供に譲れないなら他のだれかに」という考え方はあって然るべきですが、そこに「M&A=負のイメージ」という考えが妨げになっていたことも要因とされています。そのようなイメージ変化が日本中で起きている、ということが言えるのかもしれません。M&Aは「利益を確保したい」というだけの理由ではない株式会社 商工リサーチ(令和3年調査結果 )によると、売却したい / 買収したい、と考えたきっかけについて、以下が挙げられています。売却したい(n=549)買収したい(n=1,341)1位従業員の雇用維持(53.0%)売上の拡大(73.7%)2位事業の成長・発展(48.3%)新事業展開(49.1%)3位後継者不在(47.9%)人材の獲得(40.3%)4位売却による利益確保(22.0%)特筆すべきは、売却の動機として「利益確保」は22%とマイノリティであり、それよりも従業員や事業成長を目的している点です。利益追求型の欧米的な考えよりも従業員や事業を第一に考えた日本らしい血の通った考え方です。M&Aは、必ずしも利益だけを目的とするわけではないことがわかります。考え方を変える時、かもしれない中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第2版)」には以下のような文言があります。中小M&A は、譲り渡し側経営者がそれまでの努力により築き上げてきた事業の価値を、社外の第三者である譲り受け側が評価して認めることで初めて実現することであり、譲り渡し側経営者にとって後ろめたいことではなく、むしろ誇らしいことである と言える。譲り受ける側(買収側)にとっても、他社が時間をかけて築き上げてきた事業を譲り受けることは、事業を拡大するための1つの合理的な手法であるとも述べています。いまはむかし「ハゲタカ」というイメージは、変わりつつあるのです。動物病院の廃業は、もったいないこの2-3年でしょうか。「M&A(あるいは事業承継)をした」という病院の話は、ひっきりなしに聞きます。場合によっては数億円で売却できた、など景気の良い話も聞きます。しかし、現実はそう甘くはありません。売却には一定の条件をクリアする必要があるからです。例えば、あるグループ病院の買収要件は以下です。年間数億円の売り上げがある利益率が高い獣医師が複数名勤務していて、買収後も継続勤務する見込みがある院長や特定の誰かに売上依存していない(事業が仕組み化されている)かなり厳しい、というのが感想です。実際、勤務医が5名以上いる小動物病院は、6.8%(818軒)しかありません。かつ、継続勤務や利益率などを含めるとさらに狭き門になることも事実です。承継相手を探すのは、簡単ではないなぜこのような問題が起こるのでしょうか。事業承継は、譲り渡す先生と、譲り受ける相手が居て初めて成立します。しかし、現状は買い手の数が少なすぎる、という問題があります。買い手とは、大手のグループ病院や投資ファンドなど、そして少数の承継による開業を目指す個人獣医師です。大きな資本を持つ会社は確かに買収意欲が高く、かつ大きな額で売却できることもあります。しかし、前述の通り高い買収要件の壁が立ちはだかるのも事実です。であれば、個人獣医師が継いでくれるのがベストですが、諸条件に合致する相手と出会うのはかなり難しく「宝くじに当たった」とも表現されます。大切に守ってきた動物病院を譲り渡す相手を探すことは、採用することよりもずっと難しいのは想像にかたくありません。では、どうなるのか。動物病院のほとんどが廃業を選択します。現状では、そうせざるを得ないからです。しかし、私たちはこう考えています。動物病院は、地域のインフラです。築き上げてきたインフラをそのまま廃業させてしまうことはシンプルにもったいないと考えています。廃業には費用がかかる動物病院を廃業する場合、どうなるでしょうか。テナントであれば現状復帰に数百万円かかります。持ち家だとしても、改装や機材の廃棄等の費用がかかります。加えて、個人事業主として経営している病院も多く、その場合は退職金もありません。同じくらい大事なのは、飼い主さまとどうぶつたちです。信頼する先生が居なくなることは大きな喪失感があると同時に、次のかかりつけ病院を探さなければなりません。そこに連続性はありません。次の病院ではゼロから信頼関係を構築する必要があり、ほとんどの場合、診療情報が引き継がれることはないのです。しかし、動物病院には多くの資産があります。その最たるものが、カルテです。動物病院の事業承継・M&Aの新しい手法「カルテ承継とは」動物病院のM&Aを再定義するここまでのように、売却を検討する病院の多くが、売りたくても売れないというジレンマを抱えています。そこでXM&Aでは、「カルテ承継」という新しいM&Aの手法を提供しています。カルテだけをM&Aの対象として売却するM&Aの変法です。参考)XM&Aサービス紹介よりこのビジネスモデルには、地域獣医療を持続可能なものにする、という想いが込められています。なぜ、売却できるのか?全ての動物病院にはカルテ(顧客名簿+医療記録)があります。このカルテ(顧客名簿+医療記録)は獣医療にとって欠かせないものです。つまり、カルテは事業の一部であるとみなすことができます。個人情報を移行することになりますが、M&Aという枠組みであれば法律的にも解決することができます。ユニークな点は、「物理的に移動できる」という点です。カルテは、紙・電子にかかわらず、獣医師法に基づく保管義務があります。だとすれば、カルテを事業の一部として切り取り、M&Aの対象とすることで物理的に移行するということが可能になります。つまり、病院を閉院したとしても、カルテだけが次の病院で生き続けることができるのです。具体的に解説します。売却先は、近隣の動物病院。カルテを紡ぐことで、自病院のインフラを引き継げるカルテ承継は、売却先の選択肢が圧倒的に広がります。なぜなら、近隣の動物病院が承継相手になるからです。重要なのは「近隣の」ではなく、「動物病院が承継相手」という点です。一般的な事業承継・M&Aの買収先は大きな資本力がある企業か、承継希望の個人獣医師に限られます。ところが、カルテ承継の場合は、動物病院が動物病院を承継することができます。つまり、売却先の候補数が大きく増える=売却しやすいというのが特長です。カルテを承継することで、自病院のインフラを次の世代に引き継ぐことができます。廃業費+αを賄える可能性がある先に書いた通り、廃業にはコストがかかります。できれば老後に残しておきたくても、現状復帰等でどうしても費用はかかります。そんな時に、カルテ承継を使って事業売却すれば、その費用を賄えるだけでなく、それ以上の収益になりえます。雇用の維持は、条件次第一方で、病院ごと(あるいは株式ごと)売却するわけではないので、従業員の雇用については承継先との条件次第となります。もちろん、従業員にも選択の自由があります。従業員が多くいて今後も雇用を維持したい場合には、カルテ承継ではなくM&A・事業承継を検討する方が適しています。譲り受ける病院(買収側)にとっても大きな恩恵があるでは、買収側(譲り受ける病院)にとってのメリットは何でしょうか。大きく3つのメリットがあります。多くの新規顧客をもたらす分院なしでOK地域の獣医療インフラを守ることができる人材の再雇用も多くの新規顧客をもたらす最も大きなメリットは、新規顧客を得られるという点です。飼育頭数が減少し、市場全体が縮小する中、新たな顧客獲得は多くの病院の命題です。カルテを承継することにより、閉院予定の動物病院の顧客基盤を受け継げるため、マーケティングをせずとも、その病院の顧客を新規顧客として獲得できます。<関連記事>動物病院のマーケティングってなんだろう 〜その広告費は割に合っているか〜(後編)分院なしでOK多くの開業医は、分院について一度は考えたことがあるのではないでしょうか。しかし、分院性で経営することは簡単ではありません。分院をマネジメント労力が必要ですし、最大の論点は「分院長が辞めたらどうするか」です。そのため、M&Aの話があっても断るケースも多くあります。しかし、カルテ承継であれば分院をマネジメントする必要はありません。カルテをいまの病院に移行させるだけなので、これまで通りの場所でこれまで通りに臨床に向き合うことができます。地域の獣医療インフラを守る地域の獣医療インフラを守るという使命に向き合えることも重要です。多くの病院が地域に根ざした病院であり、その街のインフラです。このインフラに穴を開けることなく、譲り受けることができます。いずれ、自病院が閉院する際には、また別の動物病院に承継すれば良いわけです。人材の再雇用も場合によっては、従業員も雇用できる可能性があります。たとえば、A病院が閉院する際にA病院に勤務していたスタッフを、B病院が再雇用することも可能です(もちろん、お互いの意思次第ですが)。さらに、A病院の院長先生に臨床継続の意思があれば、B病院の勤務医として雇用(ないし、週2回などの業務委託契約)することも検討できます。その場合は、A病院の飼い主さまもB病院に通いやすくなるはずです。動物病院の事業譲渡・譲受の検討は、早ければ早いほどいいとはいえ、本当に売りたい・買いたいタイミングで都合良く相手と出会えるわけではありません。まだ決心できていなくても、なるべく早いタイミングで登録し情報収集をすることが重要です。登録後に案件をご紹介しても、断っていただくことも問題ありません。検討は早ければ早いほどいいのです。意思が固まっていなくてもOKです閉院の意思、カルテ承継の意思が固まっていなくても問題ありません。数年後まで腰を据えて考える、というスタンスもOKです。病院の不利益につながる可能性があるのに、強くM&Aを進めたり、強引に促したりすることはありませんのでご安心ください。まずは、以下のフォームまたはLINEでご相談ください。