動物病院のM&A・事業承継を検討する時に最も気になることの一つが「売却額はどの程度になるのか」でしょう。M&A=お金の匂いがする、というイメージは根強く、売却益を後ろめたいもののように捉える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、事業承継は人生の大きな岐路ですから、将来に備えるためにもインカムを重要視したいのは当然です。今回は、動物病院の事業承継で得られる売却額を自分で算定するための手法を詳しくご紹介します。事業の譲受け(買収)をご検討の獣医師の方にも参考になりますので、ぜひご一読ください!本稿では、動物病院の事業承継で採用されやすい「事業譲渡」について解説しています。会社ごと(不動産や現預金などの資産、借入などの負債、従業員や取引先等との契約類すべて)を承継する株式譲渡については考え方が異なりますので、ご留意ください。事業価値の算定方法は多種ある!簡単なものから複雑なものまで本当にたくさんの計算方法があるのですが、動物病院の売却額の試算においてはざっくり3つのパターンがあると考えてください。どれか一つで算定されることもあれば、複数で算定してその間を取るという形が取られる場合もあります。1. ディスカウントキャッシュフロー法(インカムアプローチ)いきなりめちゃくちゃ長い横文字が出てきました。長いのでDCF法と呼ばれます。ディスカウントという言葉が入っているので、なんだか損した気分になるかもしれませんが、一旦見なかったことにして大丈夫です。結論から言うと、私たちは動物病院の事業価値算定にはこのDCF法がもっとも適切だと考えています。動物病院におけるキャッシュの創出力の評価はもちろん、人的資産、物的資産の価値を総合的に評価するものであり、将来の収益性から現在の価値を算定します。デメリットは、手間がかかりまくる点と、動物病院事業に対して高いレベルの財務知識や経営知識がないと正確な試算が難しい点です。しかし、これらをクリアできれば、動物病院の総合力を評価できるため、客観性の面でも妥当性の面でも優れた手法です。XM&Aでは、このDCF法を採用し価値試算を行なっています。そのため、他社に比べて試算までにお時間をいただきます(2-4週間)。なお、価値試算に費用はかかりません。ページ上部のTsunagaruからお気軽にご相談ください2. 純資産法(コストアプローチ)これは、B/S(貸借対照表)における「純資産」をベースにその動物病院の事業価値を測る方法です。これ、とてもシンプルで、会社の資産である現預金や機材、不動産などを合計した「資産の総額」から、借入金や未払い金などの「負債の総額」を引いた金額とほぼイコールになります。ですから、シンプルで客観的です。しかし、これにはデメリットがあります。物的資産しか見ません。動物病院は、設備で仕事をするのではなく、人の技術が左右する職人事業です。試算が簡単な分、簡易的に図るのには優れていますが、動物病院本来の力を測ることができません。純資産法は、工場など設備投資に多額の費用がかかるような企業でよく採用されます。また、意図しない赤字経営の場合(経営状態の悪化)などではこちらが採用されることもあります。3. マルチプル法(マーケットアプローチ)営業利益、純資産額といった指標に一定の倍率をかけて計算します。そのため、とても簡便に算定することができます。マーケットアプローチとも言われ、その名の通り「他の類似企業に合わせ」倍率を決めます。よく使われる指標は、営業利益です。この場合、倍率は4倍として計算されることもあれば、7倍として計算されることもあります。業種によっても異なりますが、動物病院の場合4-7倍で計算されることが多いように思います。とはいえ、この差額は大きいです。年間の営業利益が1,000万円なら、事業価値は4,000万円-7,000万円、大きな差が出ます。この倍率にエビデンスはありません。ですから、ざっくりとした試算しかできないというデメリットがあります。そのため、弊社XM&Aではこの算出方法は採用していません。マルチプル法は、小売業など利益の差が少ない事業や、比較可能となる類似の上場企業の水準が使える場合などで採用されることがあります。動物病院では、業界水準といっても多種多様かつ上場企業も少なく情報が限定的であるため、なかなか妥当性のある倍率を決めることは難しいです。とは言え、自分で事業価値を算出しようとするならマルチプル法がおすすめ。算出方法を解説しますある程度の妥当性をもった算定はやはりDCF法がベストですが、簡便さではマルチプル法にはかないません。マルチプル法の算出は前述したとおり「利益など×n」で算出される簡単な公式です。ただ、注意点として正確性に欠けます。ブレる要素が多すぎるためです。営業利益を使うか、純資産を使うか、nの大きさ。ですから「自分の手計算で算出する際に、おおよそを把握する」くらいの感覚でお試しください。マルチプル法での動物病院の事業価値計算式簡易的な事業価値=営業利益×4〜7倍めちゃくちゃ省略していますが、ざっくり営業利益の4〜7倍を計算してみてください。それがざっくりな事業価値の試算です。営業利益の出し方決算書の「営業利益」を参考にしてみてください。直近3年分を平均すると良いでしょう。個人事業主の場合は、後述のQ&Aをご参照ください。倍率について動物病院のマルチプルでは、4-7倍で算出されることが多いです。一旦はこのレンジで考えてみてください。動物病院の事業価値の計算例(不要な経費の除外プロセスなし)具体的な数字の例でみてみましょう。年間売上高:50百万円年間営業利益:7百万円(利益率:14%)かける倍率:4〜7倍事業価値:28百万円〜49百万円よって、この病院の事業価値は28百万円〜49百万円(2,800〜4,900万円)程度と見積もられます。そもそも利益率14%は良好な水準であり、それなりの数字になりました。しかし、「不要な経費の除外プロセスなし」と記載している通り、これはあくまで「これまでの経営方針(決算方針)」で算出されたものです。これまで、節税の目線から利益を少なくしていたという経営者は少なくありません。そんな方のために、もう少し解説します。え、少なくない?と思った方へそうなんです。特に(利益を少なくして)節税を意識してきた動物病院経営者からすると、教科書通りのマルチプル算定ではかなり低い結果になります。それもそのはず、利益が少ないほど事業価値は下がるからです。だとしたら、本来の価値はもっとあるのでは?と考えても良さそうです。赤字の場合や、個人事業主の場合の算出については、後述のQ&Aをご覧ください算出上の事業価値を高めるためには、相手にとって不必要な経費は除外すべし。だって、それは引き継がれるものではないから論点は「承継後には不要となる経費」の存在です。わかりやすいところでは車です。社用車として計上されていても、譲受者にとっては不要な資産です。そうなれば、減価償却費からこの車両分を除くことができ、関連してガソリン代などの車輌費として計上されている諸費用をも除くことができます。同じように、承継後には不要となる経費はほかにもあるでしょう。保険料、交際費などなど。このように不要な資産を除いていくと、営業利益は増えるはずです。もう一度、4〜7倍で再計算してみてください。しかし、なんでもかんでも除けば良いというものでもありません。これまでの売上は、それだけの経費(投資)のもとに成り立っていたものでもあります。動物病院事業としてこれまで通りの運営ができなくなるものは除くべきではありません。事業価値試算を無料で承ります。承継するかどうかはその後考えても構いません。XM&Aでは、上記のように簡易的なマルチプル法での試算ではなく、DCF法を使い緻密に事業価値を算定します。不要な資産も除き、できるだけ正確な事業価値算定を行います。費用はかかりません。無料で算定いたします。事業承継をするかどうかが決まっていなくてもOK。むしろ、事業価値を知らない限り事業承継に向けた意思決定はできないはずです。必要なものは、直近3年分の決算書一式だけです。このページ下部または上部の「Tsunagaru」からお気軽にTsunagaruしてください!事業価値の算定についてよくある質問赤字の場合はどうなるの?意図的な赤字と、意図しない赤字で異なります。意図的に赤字としている場合(節税目的)は、承継後に不要となる経費を除いて計算してみてください。保険料、減価償却費、交際費、消耗品費などの一部を除きます。概算でOKです。個人事業主の場合は、どう計算する?法人化されていない場合、会計がやや異なります。個人事業主の場合は、院長報酬が経費に組み込まれないので、ざっくり、事業所得(確定申告の損益計算書の最後に記載されている部分)から1,000万円を引いてください。便宜上、これを営業利益とみなせます。関連記事この記事を書いたライター小川篤志(獣医師)東京都出身 日本獣医生命科学大学 獣医学部卒業後、宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長として臨床経験を積む。ビジネスサイドに転向後、東証一部上場企業の経営企画部長に就任。新規事業、経営管理、PR / IR、ブランディング、マーケティングを統括。日本初のペット産業特化型ベンチャーキャピタルCEO、海外動物病院法人CEO等を歴任。FASAVA(アジア小動物獣医師会学会)日本支部 理事、ITスタートアップの経営企画担当を経て、XM&Aを創業。主な功績、受賞歴COVID-19感染者のペットを預かる「#stayanicomプロジェクト」の企画・統括・責任者(環境大臣 表彰)熊本大震災 ペット災害支援(熊本県知事 表彰)、西日本大豪雨ペット災害支援日本初のチャットボットを活用した保険オペレーションシステムの構築Web Media「猫との暮らし大百科(web media)」を創設。編集長に就任し、月間100万PV超のメディアに成長上場企業 / スタートアップ合わせ総額50億円超の資金調達を主導<その他現任> 公益社団法人 東京都獣医師会 理事、学校法人 ヤマザキ学園 講師facebook、Podcast